明礬温泉でただ一つの公衆浴場となった鶴寿泉。お賽銭をあげて入らせてもらうありがたいお湯。低い湯舟には、足から身体を潜らせるように浸かります。白濁した単純酸性温泉で、明礬らしい硫黄臭をわずかながらに放ちます(7:00~20:00)

 別府温泉道を極める温泉名人が、身もだえするほど絶賛する明礬温泉の湯。公衆浴場のお湯も、旅館や施設のお湯も、それぞれに際立つ個性があって、効き目もまた様々。湯量も色も日々変化があり、全くもってきまぐれなのも、自然なればこそと思う一方で、現在、その気まぐれさゆえに閉鎖中となっている2つの公衆浴場への思慕が、地元の人たちの間では深まるばかりなのです。

 山里の温泉地には、小さな旅館が立ち並び、湯けむりがここかしこから上がっている明礬温泉に抱く最初のイメージです。しかし、その明礬温泉に唯一あるホテル、それが「ホテルさわやかハートピア明礬」。大型のホテル施設でありながら、良質の温泉を存分に提供するというのが、いかにも明礬温泉らしいといえるかもしれません。

宿泊者客はもちろんのこと、日帰り入浴客が、明礬温泉の湯巡りを楽しむことができるように、このホテルも特長ある一角となっています。

 明礬の大きな源泉を持つこの施設。面白いのは、異なる2種類の温泉が同時に味わえること。時間がたつごとに徐々に白濁して行く硫黄泉と透明の炭酸水素塩泉。そして、その温泉をたたえる湯舟もそれぞれ特長があって、趣が異なります。

さらにこのホテルの大きな特徴として、長期滞在型の有料老人ホームが併設されていること。バリアフリー化が非常に進んでいて、それは入浴施設にまで徹底されています。設備はもちろんのこと、入浴のお手伝いをするヘルパーサービス(有料)を提供することで、お体が不自由であったり、介護が必要であることから、これまでどうしても温泉地に行く、あるいは温泉に浸かるということがためらわれていた方にも、安心して明礬温泉の魅力を存分に味わっていただくことができます。明礬温泉には入ってみたいけれど、いろんな意味で遠かった・・・・そんな温泉ファンと、明礬温泉の距離をうんと近くしたと考えるならば、このホテルは明礬温泉になくてはならない大きな役割を果たしているといえるでしょう。

 館内の大浴場は、湯舟から洗い場まで徹底したバリアフリー化がなされている上に、自慢の天然温泉が掛け流しされています。これに対して、屋外にある露天風呂の施設は、明礬の自然の中に湧いている、そんな野趣あふれる温泉です。川のせせらぎや鳥たちのさえずり、自然の中でしか味わうことのない音や感覚に包まれながら浸かって行く温泉ときたら…

 扉を開いたそこには、心に描いた露天風呂そのままのイメージが広がります。泉質とともに忘れられない温泉になることでしょう。

本館から小さな小路を歩いて露天風呂へ。わずかなこの道のりも魅力ある温泉へのアプローチ。

硫黄の香りが立つ白濁した温泉。

金属をもあっという間に錆びさせてしまうのが明礬温泉の威力?!なのに、人の身体や素肌に優しい。

露天風呂であってもアメニティは充実。

 その昔、明礬温泉といえば湯治客が全国から集まってくる温泉地でした。農閑期、精一杯働いた身体を慰労し、たまった疲れを取り、そして、痛みや凝りや皮膚のかぶれなど、身体のあちこちに出てきたトラブルを明礬の温泉に繰り返し浸かることで和らげていたものです。そんな期待にこの温泉は長い間応えてきました。娯楽の少なかった当時、湯治は庶民の楽しみであり、リゾートでもありました。しかし、今、あえてこの“湯治”というスタイルに若い人たちの関心が集まっています。お部屋は狭くていいんです、何かと不便でもかまわないんです、テレビもなくていいんです、上等な温泉さえあれば・・・と。

窓からの明かりがなんとも心地いい豊前屋旅館の湯舟。別府明礬橋の景色もさることながら、湯舟に居ながら朝日や月が拝めるという有難い温泉でもある。

 「自然と温泉だけは豊富なんですけど・・・」と豊前屋旅館の若女将は言います。じつはこの会話、名湯なればこそで、明礬温泉のあちこちで聞かれる会話です。明礬温泉ではしばしば、「本当にいいお湯ですねぇ」と温泉のことをホメられると、「そうなんですか?皆さんそうおっしゃってくださって・・・・」と返されることがあります。「そうでしょ?!」と自慢されるものだとばかり思っている人には、少々拍子抜けしてしまいそうな女将さんや従業員の人たちのリアクションです。でもこれ、じつはとっても正直な感想なのです。明礬温泉で育ち、生まれた時から明礬温泉に浸かって来た人たちにとって、このお湯こそが日常であり、当たり前だからなのです。「温泉にしか入ったことがないもので、大学時代東京の銭湯に入ったら、湯冷めしたんでびっくりしました」という嘘のようなホントのエピソードも。温泉に恋い焦がれ、熱心に温泉道を極めようとしている人たちには、悔しくって、ホントにうらやましい限りの話でもあるのですが・・・・比べるものがない、世界にただ一つの温泉。それが明礬温泉なのです。

 別府は、別府八湯とよばれるように、本当に個性的な温泉地が点在するユニークで、貴重な温泉都市です。その別府の中にあって、明礬温泉は独特の輝きを放っています。

 例えば漢方薬を知り尽くしたマイスターは、どんな薬草が、身体のどこに効き、どんな病気に効果があると教えてくれます。人気のハーブ研究家のベニシアさんは、ハーブと暮らしを豊かに結びつけてくれることで、ハーブを身近なものにしてくれました。同様に、古くから別府で暮らす人たちの間では、明礬のお湯なら・・・と、それぞれの効能を知り尽くし、あるいは伝え広める中で、個性も効き目も異なる別府の温泉を上手に暮らしに生かしてきたのです。せっかく明礬温泉を訪れてくださるなら、ぜひ、別府八湯も体感して、その違いを楽しんでほしいものだと思います。そうすることで、なお一層、明礬温泉の鮮やかな力に気づいてもらえることでしょう。

 だからこそ、いま、明礬温泉は、小さな湯治、プチ湯治をお勧めしたいと思うのです。昔のように1カ月2カ月の長期滞在は無理にしても、せめて週末や小さな休暇だけでも、世の中の憂さや煩わしさから解放され、とっておきの温泉に浸かりたいだけ浸かるというプチ湯治なら、明礬温泉にお任せください。

源泉名「とびの湯」。一切人の手に触れることなく、湯舟にたどり着いた初な温泉。泉質や効能など、文字にできるのは温泉が持つ力のほんの一部

初代名誉名人の土谷さんが豊前屋旅館のお湯をこよなく愛する理由は、泉質のみならず、静かな環境や旅館全体が醸し出すものかもしれない。

 例えばこの豊前屋旅館のお湯は、別府温泉道の初代永世名人にして、初代名誉名人の土谷雄一さんがベスト10の筆頭にあげるほどの気に入りようで、テレビや雑誌で事あるごとにこのお湯へのラブコールを送ってきました。確かに、撮影の時にちょっとだけ浸けた右手の色が少し白くなり、一日中左手とは違うスベスベ感があったと明礬通信の写真撮影を担当したヨシダさんも驚きました。でも、おしなべて明礬のお湯とはこうなのです。

 そしてこのほど九州新幹線開通に伴う『九州温泉道・九州八十八湯めぐり』で、永世名人たちが選び抜いた推奨温泉として、明礬からこの豊前屋旅館のお湯とホテルさわやかハートピア明礬のお湯や明礬 湯の里のお湯が選ばれました。日本全国、意外な場所で、意外な人たちが明礬温泉の素晴らしさを知っています。名泉は人を呼び、人もまた名泉に惹かれる・・・今のように便利な通信機器がない時代でも、明礬温泉の評判は全国にまでとどろいていました。その温泉が今も変わりなく溢れているこの地。その評判がどれほどのものか、ぜひ お試しくださいと、明礬温泉の人間は胸を張って申し上げるのです。