明礬温泉に立ち上る湯気の正体は、強烈な噴気です。それは景色であり、温泉のありかを示す目印であり、ここならではの調理法のもととなる貴重な“かまど”でもあります。ゴウゴウと音を立てて立ち上る噴気を旗印にたどって行くと、必ずや美味しいものに出くわすことをご存知でしたか? 夢先案内人ならぬ、案内人に導かれた先で待っていた美味しさとは・・・・

見て、食べて、浴びて。こちらはちょっとした噴気博物館?!

 明礬 湯の里は、旅館やホテルとは一味違った明礬温泉の楽しみ方ができる場所。日帰り入浴を楽しんだり、食事やお買い物を楽しんだりといろいろです。そして、来る人を真っ先に迎えるのがボリューム満点の噴気。雨の日も、雨にも負けず噴気を立ち上らせ、風の日は、風の行方に沿って変幻自在に向きを変え、霧の日は、もうどこまでが霧だか噴気だかわからなくなるくらいです。そして、なんといっても晴天の日の噴気の美しさといったら。青空に映える白く豊かな水蒸気は、目に焼き付けておいてほしいくらいです。

 そして、そんな噴気を味わうことができるとしたら、ちょっと興味深くありませんか? 噴気を味わうってどういうこと? と不思議に思われるでしょうが、ここでは実際に目で確かめ、舌で味わうことができます。例えば、噴気孔にせいろを置き、卵を蒸す様子。温泉に浸ける茹で卵ではなく、正しくは蒸し卵です。ここから噴き出す噴気にこそ温泉成分がたっぷりと含まれていて、温泉噴気の味付けが効いた卵の美味しさといったらありません。面白いのは、噴気ごとに多少成分が違ってくるので、正確には卵の味付けにも微妙な違いが出ているものと思われます。

 噴気で調理するのは卵に限ったことではありません。トウモロコシやサツマイモなど季節の野菜に、お餅や饅頭など、要するに、蒸せるものなら何でも蒸すことができるのです。ここではそうやって蒸したアツアツを食べることができるし、お土産として持ち帰ることも出来ます。卵もそうですが、冷めても美味しく感じられるのは、やっぱり温泉成分のおかげでしょうか。
A:噴気を当てる時間によって殻の色も白身や黄身の色や具合も異なってくる。珍しい光景に、せいろのふたを開け覗き込む人も多い  B:白い殻の卵が段々茶褐色に変わっていく、白身の色までも。不思議なのは、蒸し過ぎというのがなく、いくら蒸しても美味しい  C:トウモロコシも鮮やかに蒸し上がる。野菜の旨味をも引き出す温泉蒸し料理。湯気とともに売られている  D:温泉蒸しを一通り試してみたいという人には「温泉蒸し満腹セット」320円がおすすめ。サツマイモで餡を挟んだ芋饅頭も人気

湯気の向こうに、面は踊る

 ここも一年中湯気に包まれています。これからの季節、寒さが一層増してくると、お店から漏れてくる湯気も勢いが増すようです。

 明礬うどんの湯気は、美味しさの証でもあります。朝一番、店を開く前に真っ先に行うのが大きな釜を火にかけお湯を沸かすこと。うどんを茹で、麺が売り切れてしまうまでこの釜が休むことはありません。ここでは、アレルギーを持つ人に考慮して、うどん用と蕎麦用と釜を別にしてあります。グツグツとお湯がたぎる釜。湯気の向こうで麺が泳いでいます。このたぎり具合にも独特のこだわりがあります。なぜなら、ここの女性主人、麺打ち、出汁とりと何から何までたった一人で行うからです。丹精込めて打った麺、作り置きもしない麺、もちろん湯がきにこだわりがないはずがありません。茹であがった麺は、どこか透き通ったようにも見え、麺の腰と、のど越しがなんとも絶妙です。

 さて、ここにはもう二つ、出汁をとる専用の釜があります。


 一つは昆布の出汁をとり、もう一つはカツオの出汁をとる仕上げ用です。特に、鰹節を打つタイミングは最も気を使うところ。え、そんなに?と、鰹節はふんだんに使います。出汁に深みを加えるために、個性の違う3種類の鰹節を使うのだそうです。昆布で取った出汁の上に鰹節の山が浮かぶとここからが“タイミング”との勝負です。この山が自然と沈んで行くのを待つ。混ぜない、触らない。これがすっきりと濁りのない、嫌みのない出汁をとる秘訣だといいます。

 別府の山間にある明礬温泉。季節の違いが別府八湯のいずれよりより明らかです。それでも、一年中美味しいと思えるうどんや蕎麦を出すために、麺を打つ加減、ゆで加減、出汁の濃さと微妙に手加減を加える明礬うどん。不思議ともう一度食べたくなる優しいうどんです。

E:釜でたぎる湯。たっぷりのお湯の中で泳ぐ麺はどこか美しい。立ち上る湯気こそ、「うどんアリマス」の印  F:使う昆布も立派です。北海道産の昆布はお値段もはるけど、そこは譲れないのだそうです  G:この瞬間に、なんともいえないいい薫りが店中に広がります。これだけ大量の鰹節も、2分経てばさっさと引き上げます。潔くタイミングを切ることが濁りのない出汁をとる方法  H:寒い季節、たっぷりの野菜をあんで閉じ込めたあんかけうどんが登場

生きた噴気で、蒸しあげて

 風の強い日は、岡本屋売店から上がる噴気が道路にまで威勢よくはみ出しています。ここのメニューに載る品のほとんどが、何らかの形で噴気とつながっています。プリンも、うどんの上に乗っかった温泉卵も、サンドイッチの卵でさえ噴気で蒸したものです。ここでは“地獄蒸し”と呼んでいます。
 自然に発生する噴気とはいえ所詮は自然相手ですから、毎日、毎日、その噴気の加減も違ってきます。大量の雨が降って噴気孔に流れ込むようなことがあると、ボコボコと妙な音を立て、噴気の勢いも衰えてきます。噴気孔のケアも欠かせない重要な仕事です。さらに、今はこんなに勢い良く上がっていても、これが永遠に続くわけではありません。次第に弱まっていったり、ある時パタリと吹きださなくなったり。噴気もやはり、生き物なのですから。

 そんな噴気に蒸されるものには、化学ではなかなか証明しづらい旨味成分?!が作用しているようです。普通の水道水で蒸したのとは明らかに違う旨味です。明礬温泉らしい、この独特な匂いのする噴気であればこそ、それもうなづけます。

 ここの地獄釜で蒸される人気メニューの一つに「湯の花まんじゅう」があります。実物は親指の先くらいの大きさの可愛いお饅頭です。木型で抜いて作ります。蒸す前は形も揃っていますが、蒸される噴気の加減によって、薄皮から餡がはみ出していたり、膨らみ具合が多少異なったりと、蒸し上がりがちょっとずつ違うのもご愛嬌です。お客様には二度蒸しして、いつも出来立ての熱々を出します。
 岡本屋売店、こちらも噴気が目印の明礬温泉の名物店です。

I:蒸し上がったばかりのお饅頭。明礬温泉の名物に因んで「湯の花まんじゅう」と名付けられた。お店ができた当初からある人気のメニューで、店内で食べて行く人も、お土産にする人も  J:32個、というより32粒と言いたいサイズ。小さくてもふっくらと蒸し上がっている。餡は粒餡で、控えめの甘さが薄皮と絶妙のバランス。オモシロイようにパクパク行ける  K:こちらは地獄蒸しのサツマイモ。地獄で蒸すと野菜の色が際立ってくるから不思議。色が濃くなり、味も濃くなり、旨味も濃くなる。御三時としてお土産として人気  L:岡本屋売店で今も元気に活躍中の地獄釜は全部で7孔。実際に噴気で蒸す様子も見られるが、決して覗きこまないこと。再三申し上げているように、“生き物”ですから